「私には、この愛の続きを夢見ることすら叶わない…ってな」
愛の続き、か…
「だから決めたんだ。生きよう、生きて俺たちの愛の証を残そうって」
それがなつみ園。
「俺は今、どれだけそいつのことを愛してるのかを教えてやるためだけに生きてる」
「……」
なぁ、天宮。
いない相手を想う愛なんて、むなしくないか?
ひとりきりの愛なんて、寂しくないか?
真似て砂をすくってみた。
俺とマコだってそうだ。
愛の続きなんて、陽炎のようにあやふやで不確かなものだ。
俺の命だって、いつどこでどうなるかすら定かじゃないんだからな。
砂が風にのって脱いだ上着に降り注ぐ。
それを見ながら、マコのことを考えていた。
見透かしたように天宮が訊く。
「付き合ってるのか、真琴と」
そうだ、と言う代わりに、俺は目を閉じた。
やっぱりな、と言ったきり、しばらくの沈黙。
何度波が押し寄せ、引き返しただろう。
「泰輔、おまえは真琴の前でこうやって上着を脱いだことはあるのか」と彼は訊いてきた。
俺は砂だらけの手を握りしめた。
それがどういう意味なのかわかっていたからだ。
白いワイシャツを通して見える、俺の背中にあるモノ。
それは、色鮮やかな「龍」。
俺の背中には、龍が棲んでいる。
その肢体をくねらせ、見る者全てを鋭くにらみつけた龍が。
そうだ、俺は極道のまっただ中にいる。
指定暴力団「圭条会」の一員だ。
知っているのは天宮だけだ。
彼は俺がこの世界に入ったことを責めることはなかった。
ただ「おまえの全てを神さまがご覧になっていることを忘れるな」とだけ言った。


