「立ち聞きとは感心できないな」
波がひっきりなしに打ち寄せる浜辺。
天宮は俺の前を長い足を持てあますように歩く。
「別に聞きたくて聞いてたわけじゃない。あんたの声がでかいだけだ」
「そうか」
彼はどっかりと砂の上にあぐらをかいた。
そして眩しそうに俺を見上げる。
マコには天宮の荷物を園に届けに行かせた。
男ふたりだけの静かな海岸。
海に視線をやった彼は「夏まっさかりだな」とまたも目を細めた。
「なぁ、天宮、大丈夫なのか、どこが悪いんだよ。辻本もちゃんと治療しろって言ってただろ。いいのかよ、勝手に退院して」
そんな問いかけにも、へへへっと笑って手をひらひらさせるだけ。
この前会った時よりも痩せ、顔色も良くない。
「おい、こっちは心配してわざわざここまで来たんだ。ちゃんと…」
「ナツミっていうんだ」
「あ?」
「夏の海と書いて、なつみ」
さっき辻本医師が言っていた「なっちゃん」のことだと思った。
彼は俺にその人のことを話そうとしてくれている。
だから覚悟を決めた。
上着を脱ぐと、天宮の隣に腰をおろした。
「いいのか?砂だらけだぞ。高いんだろ、このスーツ」
「まあな、あんたなんて一生袖を通すこともかなわないほどだ」
「けっ」と笑った天宮は海に視線を戻すと、驚くほど淡々と自らの罪を、そして愛する人の死を俺に語った。
昔、施設にいた頃、おせっかいな町の大人から聞いた内容とたいして変わらなかった。
だが、天宮のその女性への想いはどこまでも深かった。
「たまにさ、そいつに会いたくて仕方なくなるんだ。すると不思議なもんでさ、必ず夢に出てくるんだ。いつもそうだった。俺が悩んだりしてると見てられないのか、いつも手を差し伸べてくれた。いい女だろ?」
「…ああ」
天宮は砂をはすくってはサラサラと指の隙間から落としてゆく。
それが砂時計を連想させた。
二度とは戻らない時の流れ。
動かなくなった愛。
やり直せない日々。
「刑務所を出てきて、初めてそいつがいなくなったことを知らされてさ。いっそのこと後を追おうと思った」
だけど、そう付け加えると、少し照れたように鼻の頭をかいた。
「そいつが残した言葉が俺を思い止まらせた」
「彼女は何て?」


