「なぁ、おまえがそこまで治療を拒む理由はわかってるよ。だけど、もういいんじゃないかな」
辻本の低くてなだめるような声。
「何がだよ」
それに応じた天宮の声はどこか尖っている。
「もうおまえは充分に苦しんだよ。だからもう自分を責めて追い詰めるのはやめてほしいんだ。俺もつらくなる」
それに対して、天宮は何も答えない。
「自分をいたわるべきだよ」
「いたわる?」
自らを嘲るように辻本の言葉を繰り返すと、天宮は続けた。
「いいか、あいつの命が消えそうな時、俺は何ひとつしてやれなかった。いいや、違う。何もしなかったんだ。全てから逃げてたんだ。最低だよ。そんな自分に甘いことなんてできるわけないだろ」
「それは何度も話しただろ!なっちゃんは…」
「雅樹」
遮るようにかぶさる天宮の鋭い声。
だがすぐにいつもの柔らかい口調に戻って言った。
「ありがとな、だけどもういいんだ、もう…」
そして突然、俺たちの目の前のドアが開いた。
驚いた顔の天宮の顔と、気まずい顔をした俺とマコ。
「おまえら…」
「あ…あの、天宮先生が体調を崩されたとうかがったので…」
しどろもどろのマコ。
だけど、天宮は俺を見ていた。
真っ直ぐに。
だから俺もそらすことなく、目の前の背の高い男を見返した。
何秒かお互いを見据えた後、ふっと先に表情を緩めたのは天宮の方だった。
「あーあ、勘弁してくれよ」と天井を仰ぐ。
「もしかして今の話、聞いちゃった?」
照れたように笑う天宮の後ろで、辻本医師が悲痛な顔でこちらを見ていた。


