豊浜の診療所に着くと、診察前にも関わらず大勢の年寄りが待合室を占拠していた。
思い思いに口を開き騒がしいくらいだが、俺たちがそこに入るなり嘘のようにしん、と静まりかえる。
よそ者がそんなに珍しいのだろう。
閉鎖的で陰気な町だ、俺はいつもそう思う。
マコはそんな年寄りたちに軽く頭を下げながら、待合室の奥にある階段に目配せした。
「あっちよ、病室」と小声で言う。
俺はわざとスリッパをパタン、パタンと響かせ彼らの前を歩いた。
いくつもの冷たい目が追ってくる。
マコは、そんな俺の後を気まずそうにうつむきながら付いてきた。
「相変わらず面倒くさいやつらだ」
階段を上りきったところで、俺は言った。
「しっ、声が大きいわよ」
「かまうもんか」
もう、と呆れ顔のまま彼女は病室のある廊下の先に目をやった。
病室と言っても、こんなちっぽけな診療所には数えるほどしかない。
その中で天宮がいる部屋を探し出すことなんて造作もないことだった。
古くさいドアノブに手をかけた時、中からふたつの声が重なり合うように聞こえてきた。
「そんな身体で帰すわけにはいかない」
「昔から大げさなんだよ、雅樹は」
「いいか、信太郎。病気を甘くみちゃいけない」
なかなかドアを開けない俺に、マコが「どうしたの」と不審そうにのぞきこんだ。
俺は顎をしゃくって、彼女とドアを交互に見た。
察したのか、マコも耳をすます。
「ちゃんと治療しないと大変なことになるんだぞ」
院長の辻本の声だ。
「注射で散らせるんだろ?だったらそれでいい」
「信太郎!」
「園に帰らなきゃいけないんだ、子どもたちが待ってる。今夜は月に1回の天体観測の日だからな、準備しないと。あいつら楽しみにしてるから」
ガサゴソと紙袋に何かを詰めているような音まで筒抜けだ。


