~相原泰輔~
夕方、AGEHAに向かう途中のことだった。
マコからの電話に足を止める。
よほどのことがない限り、あいつから電話してくることなんてまずない。
それだけに少し気になりながら通話ボタンを押した。
「どうした」
『泰兄…大変なの…』
向こう側から聞こえる震えた声に、俺は無意識のうちに身構えた。
『天宮先生が…』
次の日の早朝、俺は眩しい朝日の中、車を走らせていた。
助手席には神妙な面持ちのマコ。
黙りこくったまま、一言も発しない。
「おい、今のうち寝ておけよ」と俺が言っても小さく頷くだけだ。
エンジン音だけが車内に響く。
昨日のマコからの電話、それはなつみ園の天宮が倒れたというものだった。
詳しいことはまだよくわからない。
だが、豊浜の診療所に入院していると、そこの医者の娘でありマコの親友の辻本のぞみから連絡があったらしい。
お互い明け方までの仕事を終え、朝一番で俺はマコを乗せて豊浜に向かっている。
信号待ちで煙草を取り出すついでに隣を見ると、とてつもなく不安な顔をしたマコがいた。
胸ポケットに入れた手を止める。
「そんな顔するな」
ハッとしたように顔を上げる彼女。
「あの天宮がそう簡単にくたばるわけないだろ」
赤みを帯びた目がこちらを見る。
正直、俺はこの瞳が苦手だ。
どうしようもなく心をざわめかせて、抱きしめたい衝動にかられるからだ。
「ほら、笑えよ」
そっと頬をつねるも、彼女の暗い表情は変わらなかった。


