俺たちは空いた時間を見つけては、自分の荷物をまとめていった。
部屋にはいくつもの段ボールが山積みになってゆく。
「お兄ちゃんはワンルームでいいの?もっと広いところがいいんじゃなかったの?」
「なんで?」
「とぼけちゃって。もう千春さんと同棲しちゃえばいいのに」
「ばぁか」
正直、彼女とはこれから先どうなるのかわからない。
確かに頻繁に会ってはいるものの、恋愛感情とかそういうレベルにまで俺の気持ちはどうしても盛り上がらなかった。
そのことで焦りを感じていたのは確かだ。
千春ちゃんを好きにならなきゃいけないような気がして。
好きにならなきゃ、彼女を傷付けてしまいそうで。
心底焦っていた。
彼女と一日も早く恋人になるために、真琴と離れて暮らすことを決めたわけだし…。
でもある日、ふと思ったんだ。
それは違うんじゃないかって。
だけど、気付かないふりをした。
真琴との生活があと半月をきった頃だった。
いってらっしゃい、といつものように出勤する俺を見送ってくれた真琴が、息をきらして追いかけてきたんだ。
「お兄ちゃん!今日お昼から雨だって!はい、傘」って。
昼夜逆転の仕事で疲れているはずなのに、そんなそぶりは微塵も見せずに、とびっきりの笑顔を見せてくれた。
そしてもう一度言ったんだ。
「いってらっしゃい、気を付けてね」
その瞬間にわかったんだ。
もうごまかしきれないほどにはっきりと。
別々に暮らそう、そう俺が言い出した理由が。
俺は、千春ちゃんと恋をしたいから真琴から離れようとしたんじゃない。
真琴から離れるために、千春ちゃんと恋をしようとしてたんだって…
泰輔兄さんとの距離を縮めていく妹を、これ以上そばで見ていたくないからだって。


