~片桐勇作~
岸田千春とは定期的に会うようになっていた。
こんな俺に気持ちを打ち明けてくれた彼女にできるだけ応えたい、そう思っていた。
もしかしたら一緒に過ごすうちに自分も彼女のことが好きになるかもしれない、そんな期待を抱いて…
そしてある考えが芽生え始めた。
いつもと変わらない兄妹ふたりでとる朝食。
「そろそろ別々に暮らしてみるのもいいかもしれないな」
えっ、と一瞬箸を持つ手を止めた真琴だったが、すぐに何かに納得したかのように「いいわよ」と笑う。
「私がいたんじゃ、なかなか彼女を家に呼べないものね」
どうやら千春ちゃんのことを言ってるらしい。
「そんなんじゃないけど」
「じゃあ、どんなの?」
からかうような上目遣い。
「…うーん、やっぱりそうなのかな」
あはは、妹が笑うのを見ながら、俺は複雑だった。
おまえだって、泰輔兄さんともっと気兼ねなく一緒に過ごしたいだろう?
こうやって俺の世話なんかやかずにさ。
もうおまえも大人なんだし、それなりの恋愛をすればいい。
俺が一緒にいると、とやかく言ってしまいそうだから。
それからあっという間に話は進み、俺は勤務先の新聞社近くのワンルームのアパートに、真琴はこの辺りのオートロック付きマンションにそれぞれ引っ越すことになった。
当初、オートロックなんて面倒くさいと言っていた真琴だったが、俺が「女の一人暮らしは危ないから」と強く言ってきかせた。
「心配性なお兄ちゃん。この分だと別々に住んでても、戸締まりはしたか、とかって何かと押しかけてきそうね」と苦笑い。
「しないよ、そんなことはもう」
たぶんだけど。
いや、絶対にしない…ように努力する。
「泰輔兄さんに任すよ、おまえのことは」
ボソッと言ったつもりだったけれど、真琴には聞こえたのだろう、何も言わずにうつむいた。


