「大丈夫ですか」
お兄ちゃんも一緒にこぼれたビールを拭いてくれる。
「すまない。勇作は濡れなかったか。どうやら酔ったみたいでな」
「ビール1杯でまさか。泰輔兄さんがそんなことあるわけないでしょう」と返すお兄ちゃん。
泰兄の機転ですっかり雰囲気の持ち直したところで、また飲み始める森さん。
そんな中、泰兄はおもむろに席を立った。
「あれっ、もう?もしかして俺たちお邪魔でしたか?」
お兄ちゃんは意外そうに彼を見上げて言った。
私はびっくりして顔を上げた。
お兄ちゃんにしてみれば、深い意味はなかったのかもしれない。
でも、もしかして私たちのこと気付いてる?そう勘ぐってしまった。
「仕事が残ってるのを思い出したんだ」
さらりと交わす泰兄。
さすがだと思う。
私なんて、そんな対応をすぐにはできないだろうに。
「じゃあ、失礼するよ」
余裕の笑みさえ浮かべて、螺旋階段を上がる彼を私はずっと目で追った。
またあとでね…って胸の内でささやきながら。
お兄ちゃんと森さんは閉店ぎりぎりまで飲んでいた。
最終的にお酒に飲まれたのは、森さん。
「勇作ぅ、昔みたいにおまえん家に泊めてくれよぉ」
ろれつの回らない口調で、森さんはお兄ちゃんにもたれかかる。
目なんてもう閉じたままだ。
なのに口だけは相変わらず動いている。
「なぁ、いいだろう?勇作ぅ」
私が首を横に振ると、お兄ちゃんは「わかってるよ」と言う代わりに頷いた。


