電話を切った後、突然背後から首に腕が回された。


「女か?」


その腕と声の主は、同期の森だった。


「幼なじみ。ほら、この前24時間営業の美容室の取材しただろう?そこのオーナーが実は小学生時代の同級生でさ」


「ああ、あの記事ね」


興味がなさそうに手をヒラヒラさせると、森は今度は肩を組んできた。


「昼飯まだだろ?久々に一緒に食おうぜ。訊きたいこともあるしさ」


「え?ああ、いいけど…」


曖昧な返事をした俺を、彼は半ば強引に社員食堂に連れて行った。


混み合った中、丼をトレーにのせたまま森を探していると「こっちだ」と大きく手を振っている。


人をかき分け、彼の目の前に座った。


「相変わらずおまえはとろいな。だからローカル記事しか任せてもらえないんだよ」


森は箸を振り回しながら言った。


彼とは同じ大学で専攻も同じだった。


ゼミや卒論でも奇抜な発想で周囲を驚かせたりしては、皆の注目を浴びていた。


その頃から、人を惹きつける何かを生み出す力が備わっていたのだろう。


今はその才能をかわれて、この若さである特集のチーフを任されている。


「まあそう言うなよ。おまえには迷惑をかけてるわけじゃないだろ」


俺は箸を割った。


「それよりさ、真琴ちゃん元気?」


訊きたいことって、それか…


それに妹の名前を出した時の森の態度が気になった。


普通、身を乗り出してまで同期の妹のことを訊いてくるだろうか。


真琴に関わろうとする男にはどうしても過敏になる。


それに森は昔から下心が見え見えだ。


わざと素っ気なく俺は答える。


「真琴?ああ、元気だよ、何で?」


「何でって…おまえなあ。まあ、いいや。真琴ちゃんってさ、彼氏とかいるの?」


ああ、いるよ。


「いやぁ、聞かないけどな、そんな話」