「私の持ってた自信もプライドも、結局砂の城だった。一見立派で頑丈に見えてても、あっという間に崩れちゃう」
ダサいでしょ、私、そう言って無理に笑おうとすると不自然に顔が歪んでしまったのが自分でもわかった。
泰兄はグラスを置くと、私から視線をそらすことなく近付いてきた。
そして、私の唇をそっと指でなぞる。
さっきのキスの感触を確かめるかのように。
「おまえにはこんな赤い口紅も、濃いアイメイクも必要ない」
何のことかわからず、私は何度か瞬いた。
「装いで強さなんて身につかない。そんなもの一種の気休めだ」
「じゃあ、どうすればいいの」
必死に「装って」きた私を否定する彼の言葉でも、腹立たしく思わなかった。
教えを乞うように彼の腕にすがりついた。
「そこまで言うなら教えて」
「おまえはおまえのままでいい。無防備なままぶち当たれ。今みたいに身構えてたら、いつまでたっても踏み込む勇気なんて持てない。その勇気がなければ、傷付くことすらない。傷付かずに強くなろうなんて、ムシがよすぎる」
下唇をかむ私。
彼は「現実を見ろ」と言っている。
でも私にとってその「現実」はあまりに受け入れがたいもの…
「傷付くのが怖いか」
彼の真っ直ぐすぎる瞳が痛くて、私は目を伏せた。
怖い?
そうね、この感情はきっとそうなんだ。
あいつらが、あいつらの存在を認めている人間が少しでもこの世にいることが、どうしようもなく憎くて自分がどうにかなってしまいそうなほどの感情。
お世話になったマスターや恵美さんに抱く嫌悪感。
心がバラバラになってしまいそうで怖い…
「俺がいてもか」
「え?」
反らしたばかりの目を、再び彼に向ける。
その彼の顔が少年の頃と重なる。
木の上の私に向かって手を広げ、「絶対に受け止めてやる」そう言い切った時のあの顔と。
「何かあったら俺のところに来い、今日みたいに」
泰兄の顔が近付く。
彼の今からしようとすることがわかって、私は後ずさった。
「逃げるなよ」
キスを逃れようとする私の耳元で彼は言った。
「さっき言ったはずだ。身構えてたら何も始まらないんだって、な」
甘いささやきに、身体から力が抜けていく。
「俺がおまえのそばにいてやる」
「あなたの胸に飛び込んでいいの?」
「ああ」
「あの時みたいに、ケガしない?」
そう言って、私は彼の左こめかみの傷にそっと触れた。
私を助けるために一生消えない傷をつけてしまった…。
「するわけないだろ」
「本当に?」
「信じろ」
そんな彼を受け入れるように、私たちは今夜二度目の熱い口づけを交わした。


