先ほどまで大暴れしていた男は嘘みたいにおとなしくなっていた。
ううん、おとなしくさせられていた、という方が正しい。
私よりも先に店に入っていった男達に羽交い締めにされていたのだ。
「警察の方たちですか」
恵美さんに訊いた。
「え…ああ、まぁそんな感じね」
変な返事…。
彼女は私とそれ以上話すことを避けるかのように、奥へと入っていった。
押さえつけられた男のわめく声が響き渡った。
「おまえらどこのもんじゃぁー!俺は須賀一家の幹部じゃー」
え…?
今、なんて…?
須賀一家…って…
忘れたくても忘れられないその名。
「黙れ!須賀がどうしたってんだよ!」
押さえつけてる男たち、この人たちは警察なんかじゃない、そう思った。
そして次の言葉で、それが確信へと変わる。
「いいか、ここは圭条会のシマなんだよ。こうやって騒がれちゃあ困るんだよ」
須賀一家。
そして、圭条会。
なんてこと…
新しい人生を踏み出した私のところに、またこの2つの名前が…
逃げても逃げても、追いかけてくる。
そんな恐怖に身震いした。
私はシンクにあった果物ナイフを手に取った。
許さない、あいつらだけは…
絶対に許さない…
私たち兄妹から大切なものをすべて奪い取ったやつら。
「真琴ちゃん…!何やってるの!」
戻ってきた恵美さんがひきつった声をあげて、私からナイフを取り上げようとした。
「離してください!」
「いいから、そんなもの捨てなさい!」
「許せないんです!あいつらだけは絶対に!絶対に許せないんです!」
新たに始まった女同士のもみ合いに、マスターが慌ててやってきた。
「何をやってるんだ!」
「離してください!!」


