ホールケーキ・モンスター

彼女は黒い瓦のこぢんまりとした一軒家に住んでいる。

美麗の両親は共働きなので、昼間の今は車がなかった。


私は遊びに来たときにいつもそうしているように、玄関の扉の前でインターホンを押す。


だが、音がしない。

普段なら、リンゴーンという鐘に似た音が響くはずなのに。


気のせいかと思い、もう1度ボタンを押してみる。

かしん、とボタンの沈む音はするが、肝心の鐘の音色は鳴る気配がない。


故障だろうと判断して扉を直接ノックしようとすると、扉の脇にあるガラスへ人影が映った。


「音はしないよ」


扉の向こうから、美麗のくぐもった声がする。


「このインターホン、すごくいい音がするでしょ。

鐘の音色に似せた電子音。

まるで頭を溶かすような甘い音色。


ちょうど甘いものが欲しかったから、だからね私、2回ともその音を食べちゃったの」


そうなめらかな声で告げると、彼女は私を家の中へ招き入れた。