ホールケーキ・モンスター

全てのものがケーキ色に見えると、彼女は言う。


女子なら大抵ケーキが好きだ。

嗜好品という本来不必要なものであるからこそ生まれる、欲望と節制との葛藤。

魔力のようなその誘惑に勝てる人が、いったいこの世に何人いるだろう。


たぶん美麗は、誰よりも素直な人なのだと思う。


「菜月ちゃん、お待たせ」


セメントが崩れ落ちたその向こうには、美麗と虚無が広がっていた。


私の手を取る彼女を、私は微笑んで迎える。

私にはたぶん、美麗の気持ちが分かるから。


感謝すべきは、彼女がケーキに対して敬意を忘れていないことだろう。


「いただきます」


美麗なら、無駄に食べることはしても、私と違って無駄に食い散らかすことはしまい。


「残さず、食べてね」


迫る美麗のきれいな瞳を見つめながら。

私は、今までに言ったいただきますの数をかぞえていた。