ホールケーキ・モンスター

私はなんとなく、灰色の床を見つめる。

高校へ入学したての頃、私と美麗は探険と称してこの廃屋へ足を踏み入れたことがあった。

近くの駄菓子屋で買ったお菓子を持ち込んで、ささやかなパーティなんかをやったり。


食べ残しで遊ぶ癖のある私は、包み紙まできれいに食べる彼女に、残さず食べるなんてえらいねと冗談混じりに言ったものだ。


美麗はなんと答えてたっけ。


灰色の空間に立つ私の耳へ、ごん、がつんがつんと音が届く。

続いて、声。


「君!
何をしているんだね、やめなさい!」


誰か分からないが、焦ったようなおっさんの声だ。

続いて美麗の悲鳴のような声がする。


「……だって、おいしいんだもん!」


ああ、そうだ。

彼女はいつだってそうだった。


『えらいねって、私はおいしいから食べてるだけだよ』