ホールケーキ・モンスター

まるで漫画に出てくるチーズのように穴だらけになった、美麗の部屋。


彼女は私の手をひいて、わずかに残った足場を跳び移りながら部屋の奥へと連れて行く。


「驚かないで。

私が音を食べられることは、家へ入る前に知っていたでしょ?」


私を部屋の窓際へ招くと、ガラスのはまっていない窓から外へと彼女は手を伸ばした。


「私はね、おいしそうなものなら何でも食べられるの」


見れば、彼女の手にはゼリーのような、シロップのかかったかき氷のような、澄んだ青い物体がある。

それをぺろりと飲み込んで、彼女はよだれでも垂らしそうに笑った。


私が窓から外をうかがうと、ぽっかりと空に穴が空いているのが分かる。

夜の色でもない、あれは虚無だった。

彼女は再び手を伸ばすと空の端をつかみ、ずるりと引き寄せて口へ吸い込む。


空が、1割ほどだろうか、欠けてしまった。


「空、食べちゃった。
残りは、夕焼けになった時に食べる」


そう宣言して、彼女は隣に立つ私へ怪しい光を宿した視線を向けた。


後退りかけた私の腕をつかんで、美麗は自分の方へ引き寄せる。


「危ないよ、菜月ちゃん。

後ろはもう、私が食べちゃってあるから」


彼女が私の名を呼ぶのは、ずいぶんと久しぶりのことだった。