泣いてるのを知られたくなくてもう一度目を擦ろうと手を伸ばす。
「擦るの禁止」
知っていたかのように、行動より前に先手を打たれ、目が三神くんの手によって塞がれた。冷たい。
「目、赤くなるよ。――で、ふーは何やってんの?」
頼りなのは耳だけで、少々俯きながら言葉を聞いていた。
「やー、ちょっと色々ね」
「色々って何?」
いつも通りの声質がそこにはあった。
「色々は色々だよー。本当にごめんね、れーちゃん」
振りづらくてもフルフルと首を横に振る。成瀬くんは悪くないと。
「だから何?」
「ゆずるんがそこまで干渉する事じゃなーい。しつこい男は嫌われるぞっ!」
語尾に星が付きそうなくらい弾けた声が聞こえたかと思えば、走る音が小さくなっていく。
視界が開けた時には鳴瀬くんはもう居なく、振り向いて見上げれば目に分かるくらいムッとした表情の三神くんだけが居た。