由貴と涼の反応を見た女子たちは話題のタネになりそうなものをあっさり無くしてがっかり半分と、いい男にまだ彼氏がいないなんて狙えるぜうしゃー!な喜び気合い半分で、寄ってきた。

「なになにー?朝から。うわ、楽譜」

「綾川くんピアノ弾けるの?」

「うん。少しだけ」

「少しだけじゃないじゃん。ツェルニー超長いじゃん」

「え?翠川さんピアノ弾いてる?」

「弾いてた弾いてた。100番全然終わんねーの。あたし、エリーゼとか有名なやつ弾きたかったのにさ、先生がお前にはまだ早いとかゆってー弾かせてくんねーの。ものは試しに弾かせてくれたっていいじゃんねぇ?もうさ、つまんなくてやめちゃったわ」

「あはは。ださーい。マジでー?」

「ださいとか言ってんなよ。弾いてみ?超むずいから、ピアノ」

「えー無理ー」

 きゃわきゃわ騒ぎながら、話は「綾川くんと桜沢さんどんなん聴くのー?」と、普段親しんでいる音楽の話に転がり始めた。

 涼は女子たちの会話を聞いていたが、由貴の手が気になっていた。

(会長の手、いいな…)