せんせい。
せんせい。
せんせい。
目を閉じ、心のなかで祈るように呼び続ける。
そうしていたら少しだけ気がまぎれた。
いま自分に触れているのをヨウ先生だと思いこめば、いくらか気持ちが楽になっていった。
「安心しろ、さっさと終わらせてやるからな」
わたしはこんな場所で、こんな見知らぬ男の手によって、純潔を失ってしまうのだろうか。
犯された汚い姿を、助けに来てくれるはずのヨウ先生に見られてしまうのだろうか。
それならいっそ、このまま殺されたほうがマシなのに。
「――野村!」
怒号が鼓膜を殴ったのと同時に、すぐ近くにあった男の熱がすべて消え去った。
恐る恐る目を開けてみる。
見慣れたジャケット。
眼鏡はしていないけど、間違いなく……ヨウ先生、だ。
「汚い手でウチの生徒に触ってんじゃねえぞ! てめえ、殺されたいのか?」
「チッ……」
「逃げようなんて思うなよ。このまま警察に突き出してやるからな」
ものすごい剣幕の先生が、いつも涼しげにコーヒーを飲む右手で、男の胸倉を掴んでいる。
けれど男も早かった。
ヨウ先生の腕を、体をなげうってふり払うと、そのまま転がるように逃げていった。
「っおい、待て……」
咄嗟に追いかけようとしたヨウ先生の足が、ぴたりと止まる。
そして、顔がゆっくりとこちらに向き、瞳がわたしを静かに捕らえたのだった。



