純情、恋情、にぶんのいち!



たった数回の呼び出し音を永遠にも感じる。


「……はい、もしもし」


やがて、それが途切れたあとで鼓膜を揺すった低い声に、これでもかというほど安心させられてしまった。


「せんせえっ……」

「野村?」


声質、しゃべり方、

――眼鏡をかけていないほうの先生だ。


「せんせ、助けて……っ」

「なんだ、どうした?」

「……誰か、わからないけど……男の人に追いかけられてる……」


呼吸も乱れて、呂律も回らなくて、うまくしゃべることができない。
手のひらにびっしょりとかいた汗でスマホが滑り落ちてしまいそうだ。

そのとき、ドンドンと、外側から強くドアが叩かれた。


「ひっ……!」

「どうした?」

「ドア……叩かれて、せんせ、どうしよ……っ」

「いまどこにいるのか言え」

「し……みん、市民公園の、トイレ……」

「馬鹿野郎! なんでそんなところに隠れたんだ!」


眼鏡のないヨウ先生の声が、耳元で怒鳴ったとき、なぜか涙がぶわっとあふれだした。


男の攻撃は一瞬も止まない。

今度はガチャガチャと、大きな音を立てながら鍵を壊そうとしている。


そして、なにより怖いのは、ドアのむこうにいる人物が一言も言葉を発しないことだった。

相手の姿が不明瞭なのは、想像を超えるほどに恐怖を煽られる。


「……ごめんなさっ……、せんせ、どうしよう……こわい、やだ……」

「市民公園のトイレにいるんだな?」

「ん、うん……っ」

「すぐに行く。このまま電話切らなくていい。なにがあっても絶対に諦めるな、抵抗し続けろ、いいな」


薄っぺらい機械のむこう側で、慌ただしい、温度のある音がした。