「そんな……もったいなさすぎる言葉を、わたしなんかにありがとうございます。とーご先輩はわたしの憧れの人なので、いつでも頭のなかにいます。わたしも、とーご先輩を見ると嬉しいし、お話すると幸せな気持ちになります」
とーご先輩は、わたしの拙い言葉を、うん、と丁寧に受け取ってくれた。
「ありがとう。わりともう、充分かも」
あたたかい手のひらが、するりと手首から離れていった。
「もう暗くなってきたし送るよ」
「そんな、とんでもないです!」
「そういうわけにはいかないっしょ。暗いなか女の子ひとりで帰せるわけないじゃん」
とーご先輩はおかしなところでとても頑固な人だった。
それから何度かそんなやり取りをしたあとで、折れることになったのは結局わたしのほう。
「それなら……そこのコンビニまでお願いしていいですか?」
「そこまでで大丈夫なの?」
「はい! そこから家まですぐなので!」
とーご先輩の視線や言葉に、どんな意味があるのかわからない。
そもそも意味があるのかすらわからない。
まだとーご先輩と話すこともなかった、入学したてのころ、こんな噂を耳にしたことがある。
――王子・上杉冬吾は誰にでも果てしなく優しいせいで、女子を勘違いさせる事件が頻発する。
そのときは、そんな罪深いところにすらキャーキャー言っていたけど、いまになってやっとその意味を理解できた……かもしれない。



