「泰人がふざけるから飛んでっちゃって」
わたしの手からハチマキを優しく奪いながら、困ったように笑ってみせる。
泰人、とは、ヤス先輩のことで間違いないはずだ。
彼はとーご先輩のいちばんの親友で、しかもまた違ったテイストのイケメンだから、この王子様に負けず劣らずファンも多い。
わたしたち1年女子のあいだでは、人気はきれいに二分していて、冬吾派もいれば、同じくらい、泰人派もいる。
なにせ違うタイプのイケメンが大の仲良しなものだから、ふたりのセットがスキ!というワガママガールも少なくない。
わたしは、ふたりに関して言えば、圧倒的にとーご先輩派。
ヤス先輩も本当にかっこいいけど、軽そうだし、チャラそうだし、女の子にだらしないという噂もたくさん耳にするから。
男の子に慣れているような、遊んでいるタイプの女の子は、ヤス先輩派が多いのかな。
「ほんと、ありがとね! マジ助かった!」
頭ひとつ分くらい上にある、整いすぎたお顔にぼけっと見とれていたら、それがまぶしいほどの笑顔をわたしなんぞに向けてくれた。
この事実だけで、あと5億年は生きていける気がした。



