「――千笑ちゃん!」
もう先生の姿などすっかり見えないのに、いつまでもそっちの方向をぼうっと見つめているところに、いきなり名前を呼ばれて飛び上がってしまった。
「あ、ごめん、びっくりさせて」
「と、とーご先輩……!」
「カフェラテおいしかった、ありがとう」
「あ、あ、ほんとですか! よかったです! あの、伝えておきます!」
裏でドリンクを作ってくれているクラスメートのうち、とーご先輩がそう言ってくれたという事実を聞いて、たいして喜ばないコはなかなかいないはずだ。
「……あのさ」
こす、と人差し指で鼻の頭を撫でた先輩が、空気を整えるみたいに声を出した。
「千笑ちゃん、後夜祭……誰かと出る予定あったりする?」
「え、」
なにを言われているのか理解が及ばないうちに、とーご先輩は次の言葉を口にした。
「もしよかったら……おれと出ない?」
やっぱり、なにを言われているのか、さっぱり、こってり、わからない。
「……もしかして先約があった?」
「え……」
「すごい困った顔してるから」
ぺたりと頬に触れてみたら、筋肉がカチンコチンに硬直しているので、あわててぺちぺちと叩いてほぐす。
「こま……困らない、です!」
とーご先輩が眉を下げた。
その表情を見て、それでも首を横に振るという選択肢など、普通の女の子なら持ち合わせていないと思う。



