彼の左手がそっと自身の眼鏡にかけられていく。
わたしの顔の陰に隠れているので、ほかの人にはきっと見えていないはずだ。
「……コッチの俺、とか」
「せ、せんせっ……!」
「久しぶりだな。最近めっきり出てこなかったから、寂しかったんじゃねえのか?」
からかわれているのに反抗するよりも、こんな至近距離に顔があるのにどぎまぎするよりも、なによりも先に、
「先生、ダメです、こんな人がいっぱいのところでっ」
「誰も見てねえよ」
――誰かにこっちの先生が見つかったら本当にヤバイ!
久しぶりに出てきてくれて、うれしいような、あせってしまうような、なぜか安心してしまうような、
でも、とにかくバレたらマズイ!
眼鏡なしのヨウ先生は、相変わらず大胆な人だ。
きょろきょろ、おろおろするわたしに、先生が「普通にしてろ」と耳打ちしてきた。
そうは言っても、この状況でとても平然とはしていられず、護衛のような気持ちでずっと傍にいてしまう。
お店はさらに混雑してきている。
そのうちのほとんどが女の子だった。
原因はきっと、とーご先輩とヤス先輩、
それから……ヨウ先生に違いない。
「……あの、先生」
ホットコーヒーをすすった先生が、返事をするかわりにそっと目くばせをした。
「後夜祭……誰かといっしょに出ますか?」
なぜこんなことをこんなタイミングで訊ねてしまったのか、場違いにも程がある。
それでも、いまを逃したらきっと、ぜったい、もう二度とできない質問だと思ったのだ。



