ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、とーご先輩に言ってほしかった、気もする。
似合ってる、可愛いね、って、
お世辞でも、社交辞令でも、真っ赤な嘘でも、なんでもいいから。
なんて、村娘Aごときが、高貴な王子様に対して、なんという厚かましい願いを抱いているというの。
「あ、いたいた! さやちゃん、見っけ」
自分のずうずうしさに寒気がしていたところを、ヤス先輩のうれしそうな声が現実に引き戻してくれた。
うまいこと逃げまわっていたらしいさーちゃんは、見つかるなり、「げ」と無遠慮に嫌な顔を浮かべた。
「非常に迷惑です、帰ってください、いますぐ帰ってください」
「あーもうね、それでこそさやちゃんって感じがして、もはや気持ちいいもんね」
「いえ、わたしは気持ち悪いです」
さーちゃんの対応は相変わらず純度100%のソルティだけど、やっぱりふたりの織りなすテンポは絶妙にマッチングしていて、聞いているこっちはすごく心地いい。
そのおもしろさに笑いたいような、さーちゃんの味方をしてあげたいような、手放しで冷やかしたいような。
なんともいえない気持ちが結果的に苦笑になっていたら、とーご先輩も同じ顔を隣で浮かべていて、目が合った。
「なんかほんと、いつもごめんね、おれら」
「いいえっ、わたしはいつもすごく楽しいです! むしろ恐れ多いといいますか……」
「恐れ多いって? まあ、いちばん迷惑してるのは藤沢さんかな」
たぶんそうでもないはずです、
と、少しのからかいを含めて言おうと上を向いたら、とーご先輩はすでにわたしを見つめていた。



