考えなしなので、このまま背中を追いかけたくなってしまったけど、それはヤス先輩の声によって制止されてしまった。
「チィちゃんさー」
「えっ」
「わかりやすいんだね、冬吾と同じくらい」
わたしを見上げ、にっこり笑うヤス先輩。
「な、なんのことですか……」
「んーん。こっちの話」
ヤス先輩は、チラッとヨウ先生のうしろ姿を見たあとで、再びわたしのほうに視線をずらした。
「いろいろと厄介なことになりそう」
努めて困った顔を作っているけれど、どちらかというと少し楽しそうな声色で、ヤス先輩は言った。
わたしに話しかけているような、それでいて、ひとりごとみたいな響きだ。
「さてと、そろそろ戻ろっか。冬吾とさやちゃんがコワイからね」
「はっ……! そういえば、そうだった、ふたりが……」
「おれからテキトーに言っておくから、チィちゃんはなーんにも心配しなくて大丈夫だよ」
ヤス先輩がそう言うと、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議。
「は、はいっ」
「はーい」
黒と、茶と。
きれいな二色に染まっている髪を見上げて歩きながら、ヤス先輩はどういう人なのだろう、と思わずにはいられない。
女たらしとか、チャラいとか、耳にしている噂はきっとぜんぶ本当だろう。
でも、それ以上にもっと、掴みどころのない、ふわっとした、お菓子にたとえるなら、綿菓子みたいな人。
ヤス先輩の傍にいる女の子たちは、たぶん、そのふわふわの雲に手を伸ばして、ひとかけらでも食べてみたくなるんだ。
わたしももう少し大人になって、経験を積んだら、食べてみたいと思うのかもしれない。
それは、極上の媚薬かもしれないし、恐ろしい毒薬かもしれない。



