するり、と肩に腕がまわったことに驚いている間もなく、くちびるがそっと近づきつつあった。
なんだ、これは、いったいなにが起きているというのだ。
「ヤ……ヤス、せんぱ……」
「冬吾もさやちゃんもなーんかツレないから、ちょっと一緒に抜けちゃおっか、チィちゃん」
「ええっ」
耳元でささやかれて、本気で腰が抜けてしまうかと思った。
否応なく顔が熱い。
プレイボーイ、なるもの、本当に恐ろしい。
「っ、勝手にしろ!」
とーご先輩はますます怒ったように吐き捨て、そのまま教室を出て行ってしまった。
「……あー、けっこうマジで怒らせちゃったかも」
「あ……どうしよう、謝らないと、」
「んー? だーいじょうぶ」
ピコン、と鼻の頭に人差し指を押し当てられたら、もうなにも言えなくなる。
吐息がかかってしまいそうなほどの距離。
ヤス先輩はいちいちパーソナルスペースが異常にせまいのだ。
「……ねえチィちゃん。このままほんとに抜けちゃおっか」
「えっ!?」
「おれさ、ちょっとチィちゃんと話してみたいんだよね」
「ええっ!?」
ヤス先輩は有無を言わさず、わたしの手を引っぱり上げると、クラスメートたちに「ちょっとチィちゃん借りるね」なんて簡単に言ってのけた。
さーちゃんに助けてもらおうと視線を送るも、かなりご機嫌ナナメなのか、完全無視。
「じゃー行こっか」
最近ぜったい、なにかがおかしい。
ぜったい、地球が逆回転しはじめている。



