「……チィ、もしかして」
ハサミを握る手にじっとり汗をかいている。
ずいと顔を覗きこんでくる、さーちゃんの名探偵のような瞳に、後ずさりたくなる。
ゴクリ、と生唾が喉を通過していくのを感じた。
……わたし、もしかして。
もしかして、
――なんだ?
「――さーやちゃんっ」
さーちゃんの桃色のくちびるがなにかを言おうと動きかけた瞬間、特徴的な甘い声が、いきなりわたしたちの真ん中に落っこちてきた。
「…………げ、」
「はかどってる?」
同性から見てもきれいな顔を、さーちゃんがこれでもかというほどゆがませる。
そんな反応さえおもしろがっているように、ニコニコと話しかけられる人物は、この学校にはひとりしかいないだろう。
「ヤ……ヤス、せんぱ……!」
話しかけられた当人に変わって返事をした、のではなく、わたしはただ驚いて思わず声が出てしまっただけだ。
それでもヤス先輩はうれしそうな顔をこちらに向けてくれると、こんにちは、とやはり甘ったるく言った。
「チィちゃん、きょうも髪のキューティクルがいい感じ~」
いつのまにか、呼び方が『千笑ちゃん』から『チィちゃん』にランクアップしている。
パーマもストレートもカラーもしたことのないバージンヘア、お洒落とは程遠いような子どもっぽいこれを、ヤス先輩はなんのためらいもなく、つるんと指先で撫でた。



