純情、恋情、にぶんのいち!



「あんなに怖がっていたのにね」

「……だから、もう、怖くないです」

「野村さんが将来、高い壺など買わされるようなお人よしにならなければいいのですが」


きょうもあたたかいコーヒーを入れてくれながら、わたしを横目で見て、今度はくすりと笑った。


それを見ていると、胸がきゅうとせまくなるだけで。

やっぱりヨウ先生は素敵だなあ、と思うだけで。


「わたしべつに、ぜんぜん……お人よしとかじゃない、です」

「そう」

「これは、相手が先生だから……」


言いかけたら、カチリ、とスイッチが上がる音がした。

先生がインスタントコーヒーの顆粒をスプーンですくい上げ、ふたり分のマグカップのなかへ放ると、上からそっとお湯を注ぎこんでいく。

コポコポ、という独特の水音が心地いい。


「やっぱりお馬鹿さんですね」


そして角砂糖をみっつ、黒い渦の真ん中に落としながら、ひとりごとみたいに言った。