こうして化学準備室に通いはじめて、もうどれくらいになるのだろう。
この長い廊下がもどかしくて、じれったくて、最後のほうは知らずに小走りになってしまう。
「――先生っ」
言いながらドアを開け放つと、ヨウ先生はわたしをちらっと見て、にこりと優しく微笑んだ。
きょうは、眼鏡ありのヨウ先生だ。
「少し遅かったですね」
「わ、ごめんなさい! 学祭のこと決めててっ」
「そうですか、それは、お疲れさまです」
こんなふうに、眼鏡の奥の瞳がわたしを見つめ、優しい視線をくれる日がやってくるなんて、つい最近までは想像さえしていなかった。
やっぱりわたしは“ヨウ先生推し”だと、この顔を見るたびに思う。
すごく、どきどきする。
「……どうしたんです」
「へっ」
「ぼうっとしていますよ」
あわてて先生から視線を外し、両手で頬を包みこんだ。
じゅわ、と音がしそうなほどに火照っていて、急に恥ずかしくなった。
「ふ」
電気ケトルのスイッチを入れながら、先生が息をこぼすみたいに笑う。
「そういう表情を、教師の前でしてはいけませんよ」
そういう表情、
って、どういう表情?



