「っ、なにそれ行きたい! ぜったい行きたい! 行こうね!」
「ひとりで行けば」
とーご先輩の執事バージョンなんて、想像しただけで致死量の鼻血が吹き出しそうだ。
そこで、はた、と重要事項に気づく。
同時になんとなく、さーちゃんが2年A組の情報をどこから仕入れてきたのか、わかってしまった気がした。
「ということは、ヤス先輩も、だよね?」
さーちゃんの眉間にグッと深い皺が刻まれた。
最近、ヤス先輩の話をすると、いつもさーちゃんはあからさまに嫌そうに顔をしかめる。
いままでも興味はなさそうだったし、いけ好かない、と感じてはいそうだったけど、あの放課後の一件から更に、だ。
わたしがヨウ先生について化学準備室へ行った放課後、さーちゃんはなんだかんだで、結局ヤス先輩とふたりきりで帰ることになったらしい。
それをいまだにものすごく引きずっている、さーちゃん。
「ほんっとうにあいつの話はしないでくれる?」
先輩、しかも同学年の女子のほとんどが憧れている人のことを、あいつ、と呼ぶ始末。
「ねえ、ほんとになにがあったの?」
「だからなんもないって」
「絶対なんかあったじゃん! なんで教えてくれないのー!」
「いーや、ぜーったい、なんもなかった」
この態度、この言い方、なにかありましたと言っているようなものなのに、さーちゃんはいっこうに口を割ってくれない。



