純情、恋情、にぶんのいち!



いきなり変わった口調に、がばりと顔を上げると、先生の顔の真ん中にはすでに、トレードマークのふたつのレンズは存在していなかった。

……まさか、これは。


「せ、んせ……!」

「おまえの大好きな“ヨウ先生”はもう寝たよ」


クックと喉を鳴らして笑う。

本当に違う人なのだと、それを聞いて、きのうより明確に実感している。


「まっ……前触れもなく変化(へんげ)するのやめてください!」

「バカがなんかおもしろいこと言ってんなあと思ったら、寝てられなくなったんだよ」

「またバカって言った! すぐバカって言う!」 

「あいつだっておまえのこと、お馬鹿さん、とかなんとか言ってただろ。変わんねえよ」

「変わるもん! メチャクチャ変わるもん!」


ヨウ先生――わたしの知っているその人とは別人だという“彼”は、ふたりで成し遂げた作業を簡単にほっぽりだし、笑いながら窓際のほうへ行ってしまった。

おもむろに電気ケトルのスイッチを入れる。
そして、インスタントのコーヒー豆を黒いマグカップに用意すると、ついでみたいに「おまえも飲むか?」と聞かれた。


「……変な薬とかいっしょに入れないですか」

「入れてほしいならいくらでも入れてやるが? 幸い、化学準備室にはわりかし“そういうモン”も揃ってるしな」

「っ、さいてい!」


劇薬、毒薬、――そして、媚薬、とか。

ヨウ先生とは別人格のこの人も、そういう分野にはやっぱり詳しいのかな。


ふたりは、ひとつのからだでどこまでを共有して、どこからを別に管理しているのだろう。