「きみはなかなか、想像以上のお馬鹿さんなんですね」
去っていく3人の背中が角を曲がり、ちょうど見えなくなるくらいで、先生は横顔のままそう言った。
笑っている。
言葉とは裏腹に、わたしを心からバカにしているというよりは、少しおもしろがっているふうなニュアンスだ。
「ついきのうは、あんなに怯えていたというのに」
言いながら、眼鏡の奥の目が、視線だけをちょいっとこちらに向けた。
「そして、いまもこんなに、怯えているというのに」
冷たい廊下を踏みしめている上履きのなかで、つま先にぎゅうっと力を入れる。
「じ……自分でも、なにやってるんだろう、って、思ってます、正直」
「そうですか」
「っ、化学準備室の片づけってほんとにあるんですか?」
「まあ、あるには、ありますね」
「じゃあ手伝います! 嘘でも、その場しのぎでも、“約束”、したのでっ!」
くす、と笑う音が、ひらりひらり、花びらのような速度で頭の上に降ってきた。
「そうですか。じゃあ、お願いしましょうか」
くるりと踵を返した先生の背中を慌てて追いかける。
とーご先輩の隣を歩いていたときとはぜんぜん違う意味で、何度も足がもつれそうになった。
一歩先を行く、かっちりとしたジャケットの背中。
どうしても目を逸らせないでいるのは、ずっとこのうしろ姿に憧れ続けていたせいじゃない。
怖がっているからでもない。
先生のこと、なにひとつ、見落としたくないと思ったんだ。



