きのうのヨウ先生のことを思うと、ふたりきりになるのは絶望的に怖い。
でも……いまは、先生のことを知るきっかけをこのまま失ってしまうことのほうが、きっと怖い。
「わたし、ヨウ先生との約束を破れません……!」
誰の顔も見られなかった。
「……うん、そうだよね」
一瞬の静寂に揺らぎを落としこむように、ぽつりとつぶやいたのは、とーご先輩だった。
とーご先輩の声は、完璧な球体のような、とても丸い形をしている。
「おれ、千笑ちゃんのそういうとこ、ほんとにいいと思う」
「え……」
「澄田先生との約束があったんなら、そっち優先してよ。で、おれらとはまた今度、一緒に帰ろうよ」
あんまり優しくて、ついでに顔もかっこよくて、ここに来ていきなり、なんてことを言ってしまったのかと自分が恐ろしくなる。
とーご先輩とヤス先輩からのありがたい誘いを無下にしただなんて、やはりわたしは、無礼者として処罰されるべき人間かもしれない。
「……うわー、冬吾クンかっこいー」
ヤス先輩が本当につまらなさそうに言った。
とーご先輩がむっとした顔をむける。
「しょうがないだろ。どっちかというと強引だったのはおれたちのほうだし」
「あーハイハイ、じゃあもう退散しよ。千笑ちゃん、またね」
とーご先輩の肩をポンポンと叩き、そしてさも当然のようにさーちゃんの手首を掴むと、ヤス先輩はこっちに小さなウインクをくれた。
こんなにキザな振る舞いが似合うのは、そしてそのすべてが許されてしまうのは、きっと地球上で、ヤス先輩だけに違いない。
「……はいっ。ごめんなさい! ありがとうございます!」
深々と頭を下げる。
大丈夫だよ、こっちこそ気遣わせてごめんね、
と、最後に言ってくれたとーご先輩は、きっと前世は菩薩だったのだろう。



