「あ、そういえばチィ、」
ようやくこの状況に順応してきたのか、普通に呼吸して、普通に歩くことができるようになり始めたころ、ヤス先輩と並んで少し前を歩いていたさーちゃんが、突然こちらをふり返った。
「化学準備室には行かなくていいの? 澄田と約束してるんじゃないの?」
「……はっ!」
忘れていた、というより、無かったことになっていた。
そもそも今朝のあの会話は、わたしのおかしな態度に訝しんださーちゃんの気を逸らすために、ヨウ先生が咄嗟についた嘘……だと思う。
たぶん。
むしろ、そうであってほしい。
「――あ、噂をすれば」
なにかに気づいたさーちゃんが声を上げた。
「……おや」
その声が耳に入ったのか、むこうもこちらに気づいたようだった。
そういえばここは、もう少しで下駄箱、というところ、化学室のちょうど前あたり。
「ヨ、ヨウ先生……!」
思わず名前を呼んでしまう。
先生はわたしの姿を認めると、にこりと、小さく微笑んだ。



