「なんにも手出してないじゃん。ただおれも、千笑ちゃんとしゃべってみたいなあと思って」
「いまのは絶対に必要以上に至近距離だっただろ」
「あ、ばれた?」
なぜ、このような高貴なお方たちが、この教室にいらっしゃるのだろう?
そしてなぜ、このような村娘Aに話しかけてくださっているのだろう?
疑問点はたくさんあれど、訊ねる余裕すら持てないのが、村娘Aが村娘Aたるゆえんである。
「ねえ、チィ。もうわたし帰っていい?」
ふたりで話す先輩たちと、それをぼうっと見上げるわたしに、さーちゃんがとうとうしびれをきらしたらしい。
ため息まじりに耳打ちされて、はっとする。
「ごめん、さーちゃん、いっしょに……」
「でも上杉先輩と佐藤先輩はチィに用事があるんじゃないの?」
「あ……でも、」
さーちゃんの機嫌が決してよくないのは、いまここにいるのが、とーご先輩とヤス先輩だからだと思う。
さーちゃんは、とーご先輩にしろヤス先輩にしろ、そしてヨウ先生にしろ、女の子からチヤホヤされている男性が、あまり好きではないらしい。
理由はよく知らないけど、彼女のことだから、ただ単にいけ好かない、だけかもしれない。
「――だーめ。帰らせないよ?」
するり、と。
とても自然な動きで、いまにもこの場を離れようとしていた白くて細い手首を掴み、そう言ったのは、ヤス先輩だった。



