「違いましたか? 野村さんが、まだ本調子じゃない神田先生にかわって化学準備室の片づけをしてくれる、と申し出てくれたんじゃないですか」
……なるほど。
つまり、とにかく話を合わせろ、と。
「……そ、そーです、そーです! 間違いなくそーですっ!」
首がとれそうなほど顔を上下に振っていると、ヨウ先生が息をこぼすように小さく笑った。
「はい、ではまた放課後。ホームルームに遅れないように、そろそろ教室に行きなさい」
最後まで完璧な、先生の、いつもの笑顔。
混乱してしまうから、なるべくそれは見ないようにして、いまにももつれそうな足を無理やり動かした。
「……澄田となんかあった?」
ロボットみたいにガシャガシャ動くわたしに、さーちゃんが嫌そうなのを隠そうともせずに訊ねる。
「や、やだなあ。なんにもないよ? きょうもきょうとて、ヨウ先生はカッコイイなあと思って!」
「ふうん……。なにもないなら、いいけど」
さーちゃんはあまり納得できていなさそうだけど、そして大好きな友達に嘘をついていることに多少の罪悪感は覚えるけど、
……ゴメン、やっぱりこればかりは、どうしても言えない。
だって、――だって。
『――バラしたら、おまえを犯す』
夢だったかもしれないけど、あれはたぶん、現実の出来事だったと思えて仕方がないのだ。



