「……陽平先生がロリコンだなんて知らなかった」
「俺も知らなかった」
「最低。犯罪じゃない?」
「かもな。ていうか、おまえが言うことではないだろうよ」
不服そうに口を尖らせた麻里香が、おもむろに小さな鞄のなかからなにかを取りだした。
それは、見覚えのある銀色。
「返すね」
もうとっくに動いていない針をこわばらせながら、大学時代に使っていた腕時計が、何年ぶりかに手のなかにあった。
部屋に戻り、寝室の引き出しのなかからそれを持ち出す。
返ってきたものよりひと回りサイズの小さな腕時計を、俺も持ち主の元へ戻した。
「おまえがどう思ってたか知らねえけど、俺はおまえのことも、曲がりなりにも大事に思ってたよ」
「……最後にそういうこと言うのはずるいんじゃないの」
「本当のことだ」
「千笑ちゃんにも同じことしてたら、いつか嫌われちゃうよ」
もうとっくにそうなっている可能性があることは黙っておいて、去っていく水色を、せめてと思い最後まで見送った。
田辺麻里香が、同じ傷を持った誰かじゃなく、その傷を保護してくれる絆創膏のような誰かと、出会って、違う強さを手に入れられたらいい。
俺が、野村千笑と出会って、そうできたように。



