「でも、あのコに、陽平先生は必要じゃないよ」
「……おまえに言えたことかよ」
「わたしに陽平先生は必要だよ。そうじゃないって思ってたことのほうが間違いだったんだって、やっと気づいたの」
言いながら、俺の首に腕をまわす。
「あの純粋で綺麗な女の子は、陽平先生の人生に巻きこんでいいコじゃないよ」
その通りだと思った。
野村千笑は、こんな破綻しきったやつの人生に食いつぶされていいような人間じゃない。
彼女は、もっとまっとうな、疑いようのない幸せを彼女の元へ運んでくれる、誰かの傍にいるべきだ。
旅行を最後にしようとひそかに思っていた。
それを最後にして、俺たちは、ただの教師と生徒に戻ろう。
――それなのに、
「もう、なにも、脅迫しません。わたし、ただの生徒に戻っても先生の秘密は守るから、安心してください」
小さな肩が震えながらそうこぼしたとき、これまでに経験したことのない痛みが全身を巡ってしまったのだ。
最後まで与えられたまま、なにも返せないで終わって、本当にいいのか。
俺は、この期に及んでもまっすぐ気持ちを向け続けてくれるこの少女に対して、誠実でなければならないのではないか。
俺には、本当に、この子を笑わせてやる力がないのか。
今度は俺が、この小さな体にそうしてもらった分だけ、辛抱強く待つ番なのかもしれない。



