まずいと思ったが、あいつのほうに憧れを抱いていたらしいその少女は、ひどく怯えながらも、“ヨウ先生”に従順だった。
扱いやすい生徒だと思った。
そんな生徒は、いつしか、俺のことを理解しようと必死になり始めた。
どれだけあしらおうと、脅迫しようと、先生、先生、としつこく懐いてくる。
挙句の果てに、好きだと、馬鹿げたことをほざきやがる。
「――じゃあ、バラしてもいいですか」
俺の完敗だった。
その下手くそな脅迫が効いたわけじゃない。
「わたしは、どっちの先生も……そういう特質もひっくるめて全部、澄田陽平という人が好きなんです」
ああ、これだったのか――と。
10も年下のクソガキにすっぽり抱きしめられながら、俺はそれを上手く拒否できなかったのだ。
野村千笑は、俺がずっと欲しくて、手に入れられなかったものを、いらないと思いこんで強がっていたものを、いとも簡単に与えてくれた、最初の存在だった。
野村千笑に対して、愛情に似た感情を持ち始めたのはいつからだっただろう。
笑えば嬉しいと思うし、照れればからかってやりたくなるし、怒れば困り果ててしまう。
素直に感情を返してくる無垢な生き物に、俺も、もうひとりも、魅了されていたし、居心地の良さを感じていた。
馬鹿が付くほど正直すぎる野村千笑から与えられる愛情は、どう斜に構えたとしても信頼に値する。
どうしても愛せない自分のことを、この少女だけは、すべてひっくるめて愛し、肯定してくれる。



