「陽平先生は本当はなにになりたかったの?」
終わりの始まりは、つきあい始めて1年ほどが経ったころ、父親の思惑通り教壇に立っている俺に、麻里香がそう訊ねたのがきっかけだった。
「なにに、って、なんだよ」
「将来の夢のことだよう」
言われて初めてはっとした。
そんなものを自分のなかに生み出した瞬間が、生まれてこのかた、一度もなかったからだ。
「えーっ、なに、その顔……もしかして無いとか?」
「悪かったな」
「ええーっ」
アイスココアを吸いこんでいたストローから離れたくちびるが、信じられないといった感じで突き出される。
もともとファッションが好きらしく、アパレルブランドのバイヤーになりたいと思って勉強している麻里香にとって、俺のような者はきっと異端なのであろう。
ふたりのあいだに生まれつつあったすれ違いは、顔を合わせるごとに、目に見えるほどに、どんどん大きくなっていった。
最後に別れを切り出したのは俺のほうだ。
「おまえ、もう、大丈夫なんじゃねえのか」
そう言った俺に、麻里香は、ぐにゃりと顔をゆがませた。
きっと彼女も知っていた。
自分がもう、俺を必要としていないということ。



