「わたしは、そのままの陽平先生が好きだから、お父さんに対してもそうあってほしいよ」
そのまま、と言われても、あまりぴんとこないのが不思議だ。
もともと“あいつ”と“俺”のちょうど中間くらいだったはず。
どちらの自分が本物なのか、『そのままの俺』なのか、自分でも見当がつけられずにいる。
「わたしは、こっちの先生がいたから、陽平先生を好きになったんだよ。だから怖がらなくても大丈夫だよ」
恐ろしいことなどなにもないはずで、俺は俺で上手くやれていると思っているはずで、ただ、彼女を傍で見ているうちに、こういうふうにできたら、と感じてしまうこともまた事実で。
そこそこの国立大学に進学し、きちんとした名目を得て親元を離れた彼女は、距離ができたからか、父親とも上手くやれているようだった。
そう、これが、彼女の“闘い方”だ。
諦めた末、“対父親用”の人格を自分のなかに作り上げた俺とは、違うやり方なのだ。
高校生だったころ――父親と同居していたころと比べて、大学生になった麻里香は、いつのまにか見違えるように強い人間になっていた。
友達とも、教師とも違っている、ちょうどいい存在だった教育実習生の俺に必死の救難信号を出してきたのが嘘のように。
無事に免許を取って教員となり、対父親用の人格を日常的に飼い慣らしている俺のことを、許せないと思ってしまうくらいに。
それと比例して、俺も彼女のことを、もはや生徒のひとりとして見ることはなくなっていた。
彼女はもう、父親に虐げられて震えていた少女とは違っている。
大人への階段を駆け上りながら、ひとりの女性として俺の傍にいるのだ、と。



