好きになってしまったのでつきあってほしい、
と言われたのは、実習最終日の帰り際のことだった。
「わたし、陽平先生のこと、もっと知りたい」
決して許されたことではないし、リスクもある、なにより田辺麻里香という女子生徒に対して恋愛としての愛情をもっていなかったので、即決で首を縦に振ったわけではない。
それでも、彼女のことを放っておけないと思う気持ちだけは、どうしようもなく本当だった。
涙を落としながら「家に帰りたくない」とこぼした傍から、「こんな話をしてもなんにもならない」と諦められてしまったことが悔しかった気持ちもあったかもしれない。
それは、自分の意志で教師になるわけではない、と心のどこかで反発し続けていた俺のなかにあった、一抹の、それでもたしかな“教師の部分”だった。
彼女とつきあっていくなかで、俺は自分のことも少しずつ話した。
いろいろ聞かれるのに答えていたら、ピースのそろったジグソーパズルのように、いつのまにか全容が出来上がっていたような感じだ。
「わたし、眼鏡かけてるほうの陽平先生、嫌い」
やがて陳腐な俺の物語のほとんどすべてを知った麻里香が、いちばん最初に発した感想は、それだった。
率直すぎて笑ってしまう。
「そうだろうな」
俺たちの、父親に対するなんともいえない感情は、とてもよく似ていた。
それでも、その存在に対する向きあい方は、まったくもって違っている。



