顔を上げ、目が合うと、彼女は涙をひと粒落とした。
そうして、今度は流暢にでなく、ためらいながら、怯えながら、ゆっくりと言葉を選び始めたのだった。
幼いころから、必要以上に父親によって厳しく躾けられてきたこと。
手を上げられることも少なくないこと。
母親は守ってくれるものの、男女の力の差の前ではどうにもできないでいること。
警察が家に来たことも何度かあるということ。
それでも、事件性はないからと、家庭内での問題であると、取りあってはもらえないこと。
言語化することで落ち着いてきたのか、ひと通り話し終えるころには、彼女は取り乱すどころか恐ろしいほどに穏やかだった。
「ていうか、急に変な話してごめんね」
そして、また笑う。
へらりとした、うすら寒いその顔を眺めながら、こうすることでこの子は懸命に自分の身を守ってきたのだと、教師の卵らしく胸を痛めてしまった。
――そう、俺が
もうひとりの自分を己のなかに生み出したように。
「こんな話、先生にしてもしょうがないのにねー」
「……そうだな」
「でも、なんとなく、聞いてほしくなっちゃって」
他人の瞳の奥を覗きこむ癖がある。
それは、父親の顔色をうかがいながら生きている彼女の、防衛本能からくるものなのかもしれない。
「陽平先生のことも、聞きたくなっちゃって」



