「陽平先生って、自分のこと大嫌いなんでしょ」
「――は?」
最初の一言はいまでも鮮明に覚えている。
田辺麻里香は、実習先の高校で受け持ったクラスのなかで、かなり目立っている派手な女子生徒だった。
「……なんですか、いきなり」
放課後の誰もいない教室、あしたに向けて授業の準備をしていたところに、とうの昔に帰宅したはずの彼女が忽然と現れたのだ。
そうしていきなり、先の台詞を言い放った。
「わたしね、人間観察が趣味なの。先生ってすごく嘘くさいよね」
「ずいぶんと生意気なことを言いますね。早く帰らないと暗くなってしまいますよ」
「ほら! そうやってすぐ話題変えてはぐらかすところねっ」
目の前にやって来た彼女は、まるで最初からそこが自分の居場所だとでもいうように堂々と居座り、無遠慮に俺の顔を覗きこんでくる。
「陽平先生、
――眼鏡の奥になにを隠してるの?」
校則違反の桃色がくっついた指先。
両方のそれを伸ばし、ためらいもせず、彼女が俺の眼鏡を外した。
「……別の人みたいな顔」
田辺麻里香との秘密の共有は、そうやって、唐突に始まった。



