ああ、きっと間違えてしまった。
本当は、こんなこと、少なくともこの人にだけは、話すべきじゃなかった。
「……泣かないで」
あわててゴシゴシ涙を拭う。
拭っても、拭っても、あとから、あとから、どうしようもなくあふれてきてしまう。
「その涙ひとつひとつが、千笑ちゃんの澄田先生への気持ちの大きさを測ってるみたいで、悔しいな」
「……え……」
「おれ、いま、すげーずるいこと考えてる。……最低だよね」
とーご先輩は、わたしから視線を外すと、口元だけで笑んだのだった。
いつのまにかカフェオレのから立ち上る湯気が消えていた。
室内だというのに、残冬の寒さは想像を遥かに超えている。
「千笑ちゃんはよくおれを褒めてくれるけど、ほんと、買いかぶりすぎ。おれ、好きな女の子がほかの男にふられたなんて聞いたら、チャンスだと思うようなやつだよ」
とーご先輩はもういちどわたしに視線を戻し、眉を下げて困ったように笑ってみせた。
心臓、どくどくいっている。
先輩の顔、見られない。
「チャ、チャン、ス……」
「そう、チャンス」



