「そろそろ陽が落ちますから早く下校しなさい。危ないですよ」
「ヨっ、ヨヨ、ヨウ先生……!!!」
「なんですか、オバケでも見たような顔をして」
くすり、と笑う。
空気をくすぐっていくようなそれは、間違いなく眼鏡ありのヨウ先生の笑い方で、少し混乱した。
やっぱりあれは、夢だった?
「ほら、帰るよ、チィ」
言いながらすでに歩き出しているさーちゃんの背中を、あわてて追う。
なんとなく後ろ髪をひかれるようにふり返ると、眼鏡の奥の瞳と視線が合った。
ヨウ先生。
いつも学校で見かけるのとなんら変わりない、優しそうな、知的な、穏やかな、わたしの憧れそのものの、ヨウ先生。
「待ちなさい」
ふいに、先生がこちらに歩みを進め、わたしのカッターシャツに手を伸ばした。
「じっとしていなさい。糸くずが付いていますよ」
そして、耳元にそっと、くちびるを寄せる。
「――誰かになにか言えば、“彼”がきみをどうするか、自覚はできていますね」
いつもの透き通る声で、わたし以外には聞こえない音量で
先生は、とても優しく、わたしを脅迫した。
「っさ……さ、さ、さよならっ!」
「はい、さようなら」
やっぱりあれは夢なんかじゃなかった。
見えなくなるまで生徒を見送ってくれる優しいヨウ先生、あの眼鏡の奥に、たしかに別のヨウ先生が、棲んでいるんだ。



