「……千笑、」
先生の手のひらがわたしの手首を掴んでいる。
それでも、もう自力ではとても涙を止められなくて、ふり返ることはできなかった。
先生の指先、きょうも、とても、冷たいね。
「……頼む、どうしても放っておけない」
わかっている。
先生にとって麻里香さんは、すごく、すごく、大切な、かけがえのない、どうしようもないほど大きな存在だということ。
「こんなに着信が長かったのははじめてなんだ。……もしあいつになにかあったら、」
「――じゃあ!」
麻里香さんにとっても、先生は、きっとそういう存在だということ。
わかっている。
わたしはもう、わがままを言ってはいけないということ。
「……じゃあ、先生は、麻里香さんの傍にいてください」
「……千笑、」
それでも、優しい嘘を、少なくとも半分は、わたしのためについてくれてありがとう。
「……もう、いいです」
だから、それはもうぜんぶ、お返しします。



