「……千笑」
やがて電話を終えたらしい先生が、運転席のドアを開けた。
顔は上げられない。
だって、その声はどこか切羽詰まっていて、黒い予感がじわりと胸に広がっていくのがわかったから。
「千笑、悪い」
いやだ。いやだ。
いまはなにも聞きたくない。
「ちょっと予定変更してもいいか」
「っ、また……麻里香さん……?」
「ああ、ごめん、あいつ泣いてて、ちょっと話ができるような状況じゃなくて」
先生、わたしも、泣いてるんだよ。
「おまえも連れていくから。一緒に行こう」
「……や、」
「やだじゃねえよ。シートベルト締め直せ」
「やだって言ってるもん……!」
ほとんど条件反射だった。
ドアに指をかけ、おもいきり開け放った自分に、わたし自身も少し驚いた。
でも、だって、嫌だよ。
先生、最低だよ。
先生、きょうは、わたしといっしょに旅行に行く日だよ。



