先生の右足がやっとアクセルを踏みこむ。
とてもゆっくりで穏やかな運転だった。
じれったいスピードに、顔の熱がなかなか下がってくれない。
「なんだ、窓の外ばっかり見て」
「先生のせいです……」
「なんだよ、怒ったのか」
好きな人にあんな激甘のキスをされて怒る女の子なんかきっといない。
ただ、恥ずかしいのと、どきどきがいっこうに収まらないのと、なんというか、わたしはまだ子どもなのだと実感して、それがまた、悔しくて。
「……先生なんか嫌いです」
「ふうん」
「……。……うそ、です」
車の行き先はこの街でいちばん大きな駅。
そこから特急列車に乗って、ふたりでのんびり、西のほうへ向かう予定をしている。
そう、あと4時間もすれば、わたしたちは、教師と生徒じゃなくなっているはず。
先生と手を繋いで人混みを歩いたらいったいどんな気持ちになるのだろう。
「……先生、」
「ん?」
「あのね、楽しみです、すーっごく」
「ああ、そうだな」
まだ冬の気配を残す季節の日差しは少し白っぽく霞み、輪郭がぼんやりとしている。
そういう光の粒が降り注ぎ、移り変わる景色を淡く輝かせているのが、とても、とても、きれいだった。



