「…………っ、」
喉になにかがつっかえてうまく声が出せない。
先生と、麻里香さんが、いっしょに先生のマンションに帰ってきた。
特になにか変わっている様子もなく、それはまるで、普段から、そうしているように。
「千笑、」
名前を呼ばないでください。
そんなふうに、まるで子どもをなだめているような声で。
「……陽平先生、」
いまにもはち切れて爆発しそうな、紙一重の沈黙を破ったのは、彼女だった。
「わたし、帰るよ。ごめんね……、急に呼び出しちゃって」
袖を引かれたヨウ先生が横目で彼女を見下ろす。
いいのか、と、瞳が言っている。
彼女がうなずいて答える。
「……千笑ちゃんも、ごめんね」
彼女はわたしに申し訳なさそうな笑みを残し、踵を返すと、そっとその場を去っていった。
先生は、わたしの前でまったく動揺を見せたりしない。
彼女のことを気にしているそぶりも見せないし、彼女の話題すら、一度も出さなかった。
それなのに、麻里香さん、ずるいよ。
いまこうして、先生にこんな顔をさせているなんて、ひどいよ。
――先生のすべてが、彼女を追いかけたいと訴えている。



